B.MHC領域の遺伝子構造

 HLA抗原は,第6染色体短腕部のp21.3の約4,000kbp内に存在するMHC領域によりコードされた遺伝子群により支配される遺伝子産物である.このMHC領域は,ほとんどの真核細胞膜表面上に表現されているHLA-A,B,C抗原系を支配するクラスI遺伝子領域と,B細胞やマクロファージなどの限定された組織あるいは細胞にしか表現されていない細胞特異的なHLA-DP,DQ,DR抗原系を支配するクラスII遺伝子領域および補体成分 (C2, C4, Bf)と21-ヒドロキシラーゼ(21-OH)などを支配するクラスIII遺伝子領域より構成されている.また近年,Bf遺伝子とHLA-B遺伝子との間に腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Facter; TNF)のα,β遺伝子や分子量7万前後の熱ショックタンパク質遺伝子(hsp70)の存在が確認されている.1991年に開催された第11回国際組織適合性ワークショップで公認されている抗原を表1に示す.

 

1.クラスI抗原の構造

 クラスI抗原は,遺伝的多型性に富み,抗原決定基を有している44kDa(キロダルトン)の膜結合型蛋白のα鎖と,第15染色体の支配を受ける分子量11kDaのβ2−ミクログロブリン(β鎖)とによって構成されている.クラスI抗原遺伝子は,もっとも有名なA, B, C遺伝子以外にも,E, F, Gなどの遺伝子が同定されている. クラスI抗原の立体構造については,BjorkmanらによるX線解析により,HLA-A2が決定されている(図1).βストランドN末端からC末端にかけて矢印模様で示されている.αヘリックス構造は,ラセン状のリボンで示されている.α1ドメインのN末端はNで示されている.またα2ドメインのC末端は,図下のαヘリックス構造の左端に示されている.

図1. HLA-A2抗原分子の構造

 クラスI抗原α鎖遺伝子の構造は,8個のエクソンと7個のイントロンからなっている.遺伝子の全長は約3.5 kbである.このうちα1,α2,膜結合領域には各抗原遺伝子間での変異が認められている.またα3ドメインは,免疫グロブリンの不変領域とアミノ酸レベルでの相同性を示すことが知られている. 一方,二次元等電点電気泳動 による生化学的な抗原分子の泳動パターン解析から,血清学的に同一の特異性であってもアミノ酸レベルではそれぞれに差異が確認されている.

2.クラスII抗原の構造

 クラスII抗原は34 kDaの糖蛋白(α鎖)と29 kDaの糖蛋白(β鎖)とが非共有結合 (heterodimer) した細胞膜抗原である.基本的にはクラスIと同様な立体構造を形成している。 DR4抗原にはD特異性により,Dw4, Dw10, Dw13, Dw15およびDKT2などに分けることができる.これらの抗原を二次元電気泳動で解析すると,α鎖はどの抗原でも同じ位置にスポットされるが,β鎖はそれぞれ異なった位置に沈降することが分かっている.またDNAの塩基配列の解析によってもそれぞれのβ鎖の塩基配列に相違が認められている. クラスII抗原遺伝子は7個のα鎖遺伝子と7ないし8個のβ鎖遺伝子が認められている.DRのβ鎖遺伝子数は,ハプロタイプ により異なっていることが知られている. DR抗原は1種類のα鎖と4種類のβ鎖の内の1つとが会合してDR1〜DR18抗原、DR51抗原、DR52抗原,DR53抗原を形成している.その他の5種類のβ鎖遺伝子にはいくつかの変異が認められ,偽遺伝子と考えられている.DQ遺伝子領域は2対のα鎖遺伝子とb鎖遺伝子を含んでいるが,遺伝子には異常が見られないものの,α2鎖遺伝子とβ2鎖遺伝子のcDNAクローンおよび遺伝子産物が未だに同定されていない.DP遺伝子領域もDQ同様,2対のα鎖遺伝子とβ鎖遺伝子を含んでいる.しかしながら,α2鎖遺伝子とβ2鎖遺伝子とにはいくつかの変異が認められ偽遺伝子と考えられている.その他の遺伝子としてDM, DNやDOが確認されている.クラスII抗原は,遺伝子,蛋白質レベルにおいても類似した構造をとり,それぞれに60〜70%の相同性が認められている. クラスII抗原α鎖遺伝子の構造は,5'非翻訳領域 (5'UT),リーダー配列 (L) を含むエクソン1,α1ドメインを含むエクソン2,α2ドメイン,結合ペプチド (connectingpeptide; CP) を含むエクソン3,膜結合領域 (trans-membrane region; TM),細胞内領域 (intracytoplasmic region; CY) を含むエクソン4および3'UTを含むエクソン5とからなり,α鎖遺伝子の全長は約5 kbである. 一方,クラスII抗原β鎖遺伝子の構造は,5'UT,リーダ配列を含むエクソン1,β1ドメインを含むエクソン2,β2ドメインを含むエクソン3,TMを含むエクソン4,CYを含むエクソン5,および3'UTを含むエクソン6とからなっている.しかしながらDQβ鎖遺伝子のエクソン5は使用されておらず,またDPβ鎖遺伝子のエクソン5にはストップコドンがあってエクソン5は全体が非翻訳領域になっている.β鎖遺伝子の全長は約7 kbである.