D.HLAはどういう時に行なう検査か

 HLA検査は移植におけるドナーとレシピエントとの適合性,HLA適合血小板輸血,輸血後GVH病の予防,各種疾患の診断の補助や親子鑑定などの際に実施されている.

1) 移植

 HLA抗原は,免疫機構による自己と非自己の識別する遺伝的標識に関わることから,移植時のドナーとレシピエントの組織適合性を検討する場合に行なわれている.HLA抗原の一致,不一致度を組織適合性という.現在までに臓器移植として腎,肝,心,膵,肺,腸などが、組織移植として骨,関節,皮膚,角膜が,また細胞移植として造血幹細胞(骨髄,末梢血肝細胞、臍帯血),ラ氏島細胞などが行なわれている.我が国においては,脳死などの問題もあり,HLA検査をして移植しているのは,腎臓と骨髄移植が主である.また皮膚,角膜移植についてはほとんどの症例がHLA検査を省略している.  腎移植では,必ずしもHLA抗原がすべて適合していなくても移植腎は生着することもある.これは近年シクロスポリンなどの新しい免疫抑制剤が開発され,その効果に依るところが大である.HLA抗原の適合度の高いほど移植成績が良好である.

2) 輸血

 輸血を頻回受けている患者では,HLA抗体などが産生され,そのために血小板を輸血してもほとんど効果がないことがある.このような場合,ドナーのリンパ球と患者の血清(血漿)との間で交差試験を行ない適合した血小板を輸血するか,またはHLA抗原の適合した血小板を輸血することにより,その効果を期待することができる.  近年輸血によるGVH病 (graft versus host disease) が問題になっている.これは輸血血液中のドナーリンパ球がレシピエントの組織を攻撃して起こるもので,発熱,紅斑で始まり,黄疸,肝障害,下痢,下血などの症状が続き,最終的には,汎血球減少,骨髄無形成,敗血症を来たし,ほとんどが死亡する.輸血後GVH病の発症は,レシピエントのHLA抗原の片方をドナーがホモ接合で有している場合に起こることが多い.ドナーのHLA抗原をすべてレシピエントは持っている場合,ドナー細胞をレシピエントは非自己として認識できず,ドナー細胞を排除することができないの.一方,輸血されたドナー細胞からみるとレシピエントのHLA抗原は非自己として認識されることから,レシピエントの組織が攻撃されるGVH病が引き起こされる.

3) 疾患

 疾患の発症には遺伝的要因と環境要因が関与している.先天性代謝異常症などは遺伝子そのものの異常に基づく単因子疾患であるが,一般的なヒトの疾患は,遺伝的要因と環境要因とが相互に関与して発症する.HLA抗原は高度な遺伝的多型性に富み,免疫応答に密接な関わりがあることから,これをマーカーとして様々な疾患についての調査が今までに数多く行なわれてきた.  最近まで,HLA抗原と疾患との相関解析は,主として血清学的にタイプされた抗原との間で行なわれてきたが,血清学的には同一の抗原であっても,アミノ酸配列に相違のみられるものが数多く見出されてきている.このような微細な変化であっても免疫応答に差異が観察されている.例えば,クラスIIにおいて慢性関節リウマチ (RA) ,IDDM,インスリン自己免疫症候群 (IAS) は何れもHLA-DR4と相関するが,DNAレベルではRAとIDDMはDRB1*0405と相関するのに対し,IASではDRB1*0406と相関する.  ナルコレプシーは特にクラスII分子と強い相関が見られ,ほとんどの患者で HLA-DQB1*0602が認められている.SLEとHLAの関連性については,DR2, DR4, あるいはDR2/DR4ヘテロなどとの相関が報告されていた.しかしながら,近年のDNAタイピングによりDRB1*1501との相関が報告されている.  その他に報告されているものとしては,特発性膜性腎症 (DRB1*1501),潰瘍性大腸炎 (DRB1*1502),ハンセン氏病 (DRB1*1501, DRB1*1502),橋本病 (HLA-DR53),原田病 (HLA-DR4, DQ4),などがある.  クラスI分子についてはようやくDNAタイピングができるようになってきたばかりなので,血清学的に相関の示されている代表的な疾患を以下に示す.強直性脊椎炎 (AS),ライター症候群とHLA-B27,ベーチェット病とHLA-B51,高安病とHLA-B52,尋常性乾癬とHLA-Cw6などが報告されている.ASと相関するB27抗原のアミノ酸配列と病因と考えられている Klebsiella菌構成成分との間に相同性がみられ,発症に関与している可能性が示唆されている.一部の疾患ではHLA検査が診断に役立っている. 法医学  HLA抗原は遺伝的に多型性に富んでいることから,親子鑑定に利用されている.HLA抗原での父権否定確率は,ABO式血液型や血清型などを総合的に検査して得られた確率と同程度であり,信頼性が高い.アメリカでは通常HLAを用いて親子鑑定を行なっているが,我が国でもようやく親子鑑定の際にHLA検査が行なわれるようになってきている.またDNAタイピングにより,より詳細な検討ができるようになってきている.